第3356回 今度は愛妻家
平成二十二年一月(2010)
渋谷 渋谷TOEI②
ときどき、思いがけないどんでん返しのある映画があって、うれしくなるが、内容を語ることができない。推理小説の犯人をばらすのと同様に反則だから。
中には意外な結末ですよというだけで、ネタばれになってしまいそうなものもある。
『今度は愛妻家』は倦怠期の中年夫婦を描いたコメディだろうと予想して、あまり先入観なく観に行ったのだが、いやいや、凝った展開に引き込まれた。うまい。
結婚して十年もすると、夫は愛情をうまく口に出さなくなる。妻に愛しているとか好きだとか、そんな歯の浮くような言葉、言えるものじゃない。妻もまたぶすっとしていつも機嫌が悪く、うっかり好きだよなんて言おうものなら、何を馬鹿なことを言ってるんだと睨み返されてしまいそう。でも、ほんとうは言わなければ伝わらない。夫婦の間でも愛情は。
夫は元は有名なカメラマンらしいが、今は仕事がない。横暴で自分勝手でぶっきらぼうで、妻に対して優しい態度など取れないタイプ。仕事もせずにぐうたらしている。
妻は、中年になってもやさしくてかわいい奥さん。夫につくしたり、甘えたり。でも夫は照れ臭さもあり、なかなかそれに応えない。その妻が突然、家出してしまう。
夫が豊川悦司。妻が薬師丸ひろ子。この家に出入りしているのが弟子の濱田岳と老年のゲイ石橋蓮司。これに女優志望の蓮っ葉女、水川あさみが加わり、盛り上がる。
せりふが緻密でよくできていると思ったら、原作は舞台劇らしい。五人の登場人物の演技で見せる。結末は言えないが、最後はびっくりして、ジーンとなった。
思えば、毎週映画を観に出かける私だが、妻とは十数年いっしょに映画館に行ったことがない。
今度は愛妻家
2010
監督:行定勲
出演:豊川悦司、薬師丸ひろ子、石橋蓮司、水川あさみ、濱田岳、城田優、津田寛治、奥貫薫、井川遙