第355回 ファントマ電光石火
昭和四十七年七月(1972)
大阪 中之島 SABホール
変装の名手の怪盗といえば、フランスではアルセーヌ・ルパン、日本では怪人二十面相が有名だが、もうひとり怪盗ファントマの活躍するフランス映画のシリーズがあり、私はこれが好きなのだ。
素顔のわからない変装の名手ファントマの犯罪にパリ警視庁のジューヴ警部と新聞記者のファンドールが立ち向うドタバタコメディ。
ルイ・ド・フュネスふんする警部の無茶苦茶な捜査とファントマとファンドールの二役を演じた渋いジャン・マレーの組み合わせが抱腹絶倒で、ヒロインエレーヌのミレーヌ・ドモンジョも美しい。
ファントマは変装の名手なので、いろんな人物に化けるが、それをみんなジャン・マレーが楽しそうに演じている。
ファントマが著名な科学者を誘拐しようとしているのを知ったファンドール記者がその科学者に化け、ファントマも同じ科学者に化け、科学者本人もその場に乗り出してきて、だれがだれかわからなくなるという混乱ぶりが大笑いだったのを今でも鮮明に記憶している。
今思えば、ファントマの仮面は『犬神家』のあの仮面と似ている。
一九一一年に刊行されたピエール・スーヴェストル&マルセル・アラン著の原作はハヤカワ文庫で出ており、コメディとはほど遠い真面目な文体で、古風な犯罪小説である。ファントマはルパンを凶悪にしたような怪人。小説のジューヴ警部もルイ・ド・フュネスと大違い、知的な捜査家となっている。
『ファントマ』は戦前からすでにサイレント映画で作られて、一九七〇年代にはTVシリーズになっているそうだが、私はどれも未見。アンドレ・ユヌベル監督の映画版は『ファントマ危機脱出』『ファントマ電光石火』『ファントマミサイル作戦』の三本が作られた。私が劇場鑑賞したのは二作目だけ。あとの二本はTV放映で観た。
ファントマ電光石火/Fantômas se déchaîne
1965 フランス/公開1966
監督:アンドレ・ユヌベル
出演:ジャン・マレー、ルイ・ド・フュネス、ミレーヌ・ドモンジョ