第352回 モリエール 恋こそ喜劇
モリエールは演劇史上、シェイクスピアと並ぶ名高い劇作家である。が、私は昔、その戯曲を読んだとき、まるで吉本新喜劇のようだと思った。この映画でモリエールが演じる喜劇の場面、ほとんど吉本のお笑い芸人そのもの。
十七世紀の半ば、ルイ十四世の治世。仲間と劇団を作ったものの、多額の借金のためパリを追われることになったモリエール。その即興的な演技力を見込まれて、田舎の金持ち商人に演技指導のため雇われる。
この商人、貴族にあこがれ、妻がいるにもかかわらず、貴族の夫人に恋焦がれ、その心を得るために社交界で寸劇を演じたいと、妻に内緒でモリエールに演技指導を依頼するのだ。商人の幼い娘の家庭教師との触れ込みで、モリエールは屋敷に逗留し、商人の妻である美しい中年女性に思いを寄せる。
ここで展開される茶番が、そのままモリエールの代表作である『町人貴族』や『タルチュフ』という趣向。
ルイ十四世の王弟、フィリップ殿下に招かれて、モリエールは下品で刹那的な喜劇よりもシリアスな芸術作品を目指したいと宣言しようとするが、お笑いを希望する殿下の前では言いそびれてしまう。そして、人を笑わせる喜劇の中にも人間の真実が描かれていることを悟り、喜劇だけを上演し続けることを決意する。
配役も絶妙で、モリエールにロマン・デュリス、町人貴族のモデルそのものの商人がファブリス・ルキーニ、その夫人にラウラ・モランテ、薄情な貴婦人にリュディビーヌ・サニエ、商人に金をたかる貧乏貴族にエドゥアール・ベール。
モリエール 恋こそ喜劇/Moliere
2007 フランス/公開2010
監督:ローラン・ティラール
出演:ロマン・デュリス、ファブリス・ルキーニ、ラウラ・モランテ、リュディビーヌ・サニエ、エドゥアール・ベール