シネコラム

第282回 空想天国

第282回 空想天国

平成二十二年十二月(2010)
銀座 銀座シネパトス

 子供の頃、私はクレージーキャッツが大好きで、植木等ハナ肇も好きだったが、谷啓には特に惹かれていた。
 谷啓が亡くなったとき、銀座シネパトスで追悼特集「虹を渡ってきた男・ガチョーン伝説」が開催された。「虹を渡ってきた男」というのは谷啓主演の『クレージーだよ奇想天外』の主題歌。「ガチョーン」というのは谷啓得意のキャッチフレーズ。
 植木等は天性の明るさでカリスマ的存在、ハナ肇浪花節的人情喜劇、では谷啓の魅力はといえば、その変人ぶりであろうか。
 芸名がダニー・ケイをもじったものであることは周知の事実。ダニー・ケイの代表作といえば、『虹を摑む男』、ジェームズ・サーバーの短編をもとにした映画で、空想癖のある主人公が現実と白日夢との区別がつかなくなる。その谷啓版が、この『空想天国』なのだ。ゆるゆるのギャグ、それなのに、全然泥臭くなくて、不思議におしゃれな、日本のお笑い芸人にはちょっとない洒落たセンス。
 大手建設会社の設計部に勤める主人公、独身で母親とふたり暮らし。なにかにつけ、いつも夢見ている男。
 地方出張を命じられると、事前に行った先で出会う人たちを想像する。実際に行ってみると、現実は彼の空想と不思議に似ているところもありながら、全然違う結果にもなる。
 夢の中に出てくる理想の女性が酒井和歌子。彼は現実世界で産業スパイ戦に巻き込まれ、理想の彼女に出会う。
 だが、彼女は調子のいい二枚目に惹かれている様子。これが宝田明
 夢見る主人公は、はたして現実でも幸福になれるのだろうか。もちろん、なれるのだが、はて、その幸福、ほんとうに現実か、それとも夢の延長か。

空想天国
1968
監督:松森健
出演:谷啓宝田明酒井和歌子、北あけみ、藤岡琢也ハナ肇桜井センリ藤田まこと京塚昌子平田昭彦