シネコラム

第267回 あなただけ今晩は

第267回 あなただけ今晩は

昭和五十三年十月(1978)
渋谷 東急名画座

 ジャック・レモンシャーリー・マクレーンが共演、監督がビリー・ワイルダーとくれば、もう一本が『あなただけ今晩は』である。
 シャーリー・マクレーンふんするイルマ・ラ・ドゥースはパリの娼婦。可愛くて気がやさしい。売春は違法だが、警官は娼婦のヒモから金をもらって見逃している。
 そこへジャック・レモンの新米警官ネスターが配属され、馬鹿正直に売春宿を取り締まると、客の中に警察のお偉方がいて、手柄どころかクビにされる。
 ところが、ひょんなことから、ネスターはイルマに惚れられ彼女のヒモになるのだ。生真面目な男が警官から一気に娼婦のヒモに。
 ヒモのくせに、純情なネスターはイルマが他の男を相手に商売するのが我慢できない。そこでどうするか。金持ちの英国紳士に変装し、客としてイルマを独占する。その費用を稼ぐために一日中、市場で重労働。
 自分の相手をしてくれなくなったネスターに寂しさを感じて、イルマの心は徐々にやさしい英国紳士に傾いていく。となると、ネスター、今度は自分でもうひとりの自分に嫉妬して……。
 それでも最後はちゃんとハッピーエンドになるからうれしい。
 一九七〇年代、倉本聰脚本による同名のTVドラマが放送された。ビリー・ワイルダーとは全然別のオリジナルストーリーで、サラリーマンの妻が病気で死ぬが、夫が心配で成仏できない。夫が幽霊を怖がるといけないから、夫の兄のところへ夜な夜な夢枕に立ち夫の行く末を相談する。兄は美人の義妹が夢に出てくるのでうれしくてそわそわしてしまう、というオカルトコメディだった。妻が若尾文子、夫が藤田まこと、夫の兄が中条静夫。これもまた忘れがたいもうひとつの『あなただけ今晩は』である。


あなただけ今晩は/Irma la Douce
1963 アメリカ/公開1963
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモンシャーリー・マクレーン、ルー・ジャコビ、ブルース・ヤーネル、ハーシェルベルナルディ