第258回 クリスマス・キャロル
年末になると上映されるのがクリスマスストーリー。チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』を文庫で読んだのは、高校生のときだった。
血も涙もない金の亡者、因業じじいのスクルージが、クリスマスイブの夜、過去、現代、未来の三人の精霊の訪問を受け、幻影を見せられる。タイムマシンのない時代にディケンズの想像力はすごい。
『クリスマス・キャロル』の映画はいくつも作られているが、私はアルバート・フィニーがスクルージを熱演したミュージカル版がなにより好きだ。公開時に見損ねて、NHKで放送されたものを観たのが忘れられない。田無市と保谷市が合併した翌年に旧田無の公民館の視聴覚室でようやく観ることができた。
アルバート・フィニーは三十代だったが、さすがに名優、立派に因業な老人をこなし、過去の幻影の中の若いスクルージも演じていた。美しい女性と愛し合い、やがて彼女への愛情よりも金儲けのほうが面白くなる。傷ついた彼女が去って行くのを、黙って見送っている。老いたスクルージは涙を浮かべ、過去の幻影に向かって叫ぶのだ。
彼女を引き止めろ、行かせるな。すでに起こった過去は変わることはない。現代の精霊はスクルージが低賃金でこき使っているクラチットの家のクリスマスを見せる。貧乏人の子沢山。病弱で足の不自由なティム坊や。それでも仲のいい家族たち。
未来の精霊による幻影では、町で浮かれ騒ぐ人々。「スクルージさん、ありがとう」の大合唱。スクルージはびっくり。みんなが自分に感謝している。実は極悪人の高利貸しが死んだので、町の人々は金を返さなくてもいい。「スクルージさん、死んでくれてありがとう」と歌っていたのだ。かくして、夢から覚めたスクルージは生まれ変わる。
私の好きなシャーロック・ホームズのパロディに、著名な慈善団体スクルージ財団の弁護士、片足の不自由なティモシー・クラチット氏がベイカー街を訪れる短編があるが、それはまた別の話。
クリスマス・キャロル/Scrooge
1970 アメリカ/公開1970
監督:ロナルド・ニーム
出演:アルバート・フィニー、アレック・ギネス、ケネス・モア、イディス・エヴァンス、スザンヌ・ニーブ