シネコラム

第256回 なにわ忠臣蔵

第256回 なにわ忠臣蔵

平成九年十一月(1997)
築地 松竹セントラル3

 私は忠臣蔵はある種やくざ映画に近いと思っていた。かっとなって見境なく暴力を振るう浅野内匠頭。徒党を組んで殴り込み、仕返しする大石内蔵助以下赤穂浪士。討ち入りの出入りはまるでやくざ映画さながらである。
 やはり同じような思いの人がいたのだろうか。忠臣蔵の物語をそのまま現代大阪の闇社会に置き換えた『なにわ忠臣蔵』が作られた。
 短気ですぐかっとなり周囲をびくびくさせている浅野内匠頭や子分を引き連れてなぐり込みを企む大石はやくざそのものだが、史実では、被害にあった高家の名門、吉良上野介はインテリの紳士である。だが、それではドラマにならないので、ここでは吉良も極道、売春、麻薬、闇金融の凶悪組織の親分として描いている。
 浅野方は任侠道を守り庶民に好かれる気のいいやくざ。現代の大阪にそんな時代がかった善良な暴力団があるかどうか。
 あとは忠臣蔵物語をどう任侠映画に置き換えるか。
 広域暴力団の儀式の席上で、系列の吉良組組長に侮辱された浅野組組長が殴りかかるのが松の廊下。浅野組が潰れて、若頭の大石が翌年に数人の子分たちと吉良を撃つのが討ち入り。が、あまり忠臣蔵らしくないのが残念。
 大石が岩城滉一、吉良が長門裕之、浅野が竹内力暴力団っぽい配役だが、大阪が舞台なのに、関西出身の俳優が少ないのもリアリティに欠ける。暴力団の持つ怖さ、不気味さがもっと出ていればよかったのに中途半端。でも、珍品として忠臣蔵コレクションには入れておこう。


なにわ忠臣蔵
1997
監督:萩庭貞明
出演:岩城滉一長門裕之鶴見辰吾大和武士庄司哲郎、松田勝、榊原利彦竹内力夏八木勲哀川翔今井雅之、白竜、川上麻衣子山口祥行、西守正樹、佳那晃子、香川照之小川範子石塚英彦