シネコラム

第252回 わんわん忠臣蔵

第252回 わんわん忠臣蔵

昭和三十八年十二月(1963)
大阪 八尾 八尾東映

 私が最初に映画館で観た忠臣蔵がなんであったか、それはわからない。学齢に達する幼児の頃から、祖母に連れられてしょっちゅう映画館に通っていたのは憶えている。たいていは時代劇だった。
 忠臣蔵の映画もだから、たくさん観ているはずなのだが、当時の私は俳優の名前も知らないし、細かな記憶力もない。刃傷と討ち入りはおぼろげながら浮かぶのだが、忠臣蔵映画は毎年、各映画会社でたくさん作られているから、最初に観たのがどの忠臣蔵かは断定できない。
 小学生になると、既に家にTVがあったので、あまり映画館には行かなくなった。映画館に行くとすれば、時代劇ではなく、アニメーションや怪獣ものである。
 私が映画館で観た忠臣蔵で最初に強い印象を残したのが東映動画の『わんわん忠臣蔵』であったのは、当然かもしれない。小学校四年生の冬休みである。
 四年生ともなると、TVの忠臣蔵を何度も見ているので、だいたいストーリーは知っていた。タイトルに「わんわん」の付く忠臣蔵、犬の忠臣蔵なのだ。
 森に住む白犬の母と子。母犬は強く勇敢で心優しく、動物たちに慕われている。この母犬が嫌われ者の虎、その名もキラーに騙し討ちに遇い、谷底に落ちて命を失う。子犬のロックが敵を討とうとして、失敗、放浪の旅へ。
 森に人間の手が入り、動物たちは都会の遊園地にある動物園に収容される。虎のキラーもまた、動物園でもボスとなって動物たちを支配している。ここへロックと仲間の野良犬たち四十七匹が現れ、キラーと対決し、見事母犬の敵討ちをする。
 忠臣蔵を子供向きにして、森の動物たちに置き換えているのだが、子犬が放浪の末、親の敵を倒すのは『ジャングル大帝』をも思わせる。原案が実は手塚治虫だった。


わんわん忠臣蔵
1963
監督:白川大作
アニメーション

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