シネコラム

第250回 探偵/スルース

第250回 探偵/スルース

昭和四十八年十月(1973)
大阪 梅田 北野シネマ

 

 劇作家ピーター・シェーファーは実は双子で、しかも驚いたことに、双子のもうひとりアンソニーシェーファーもまた劇作家なのだ。アガサ・クリスティ風の推理劇を書いていて、名匠マンキーウィッツの手で映画化されたのが『探偵/スルース』である。
 原作が舞台劇なので、場面はほとんど大きな屋敷の一室だけ。登場人物も少ない。
 著名な初老のミステリ作家がローレンス・オリビエ。二枚目の美容師がマイケル・ケイン。作家の妻がこの若い美容師と恋仲になっていて、美容師が作家の屋敷に呼びつけられる。
 浮気を責められるのかと思いきや、作家はある提案をするのだ。実は自分にも若い愛人がいて、妻には未練がない。が、妻は金のかかる女だ。美容師の君は金銭的に彼女を満足させられないだろう。そこで、我が家にある宝石を泥棒に見せかけて盗んでほしい。私には保険金がおりるし、君はその宝石を金に代えて、妻と楽しく暮らせるだろう。
 ほとんど会話だけで物語は進行するのだ。とくに印象深いのが、ふたりがビリヤードをする場面。オリビエが先に玉を撞き、次々とポケットに落としていく。とうとう最後まで全部落としてしまい、キューを持ってぼんやり立ち尽くすケインに言う。
「君もやるつもりだったのか」
 この映画を観たあと、私はビリヤードが好きになり、けっこう撞球場に通ったものだ。
 リメイクされて、今度は初老の作家をマイケル・ケインが演じ、若いほうはジュード・ロウ。舞台劇はシェイクスピアでもチェーホフでもいろんな役者が繰り返しやるから、別にかまわない。

 

探偵/スルース/Sleuth
1973 アメリカ/公開1973
監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ
出演:ローレンス・オリビエ、マイケル・ケイ