森川雅美・詩

明治一五一年 第6回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第6回

はじまりの足どり
は長州やら薩摩やら
はたまた水戸か土佐か
などとはや呟く
いく人もの無念の
生首が地面に転がり
結びえない言の葉たち
が無残に花開く
さらに誰かの背から
誰かの背へと結ぶ
己か本分の忠節を守り
義は山岳よりも重く
死は鴻毛よりも軽しと
消えていく足どりは
満州やら南洋やら
不明のままもう
誰かも分からずに漂う
散り散りになる記憶
の内に祈りを注ぎ
いく年も埋もれた歪の
奥底までも浚う
戻らない光のかたちを
あるままに念じ
己か本分の忠節を守り
義は山岳よりも重く
死は鴻毛よりも軽しと
細まる足は海洋汚染
やら異常気象やら
留まらぬ風向きである
なら裸眼を晒す
人のかたちすらも
なお誰も掴めず淀み
柔らかな手のひら
を知らぬ地に伸ばす
問われるよりも
早く生きいく声を覆う

※「軍人勅諭」からの引用あり

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