シネコラム

第204回 華氏119

第204回 華氏119

平成三十年十一月(2018)
大阪 梅田 大阪ステーションシネマ

 

 ドナルド・トランプというのは、どうも嫌な感じで、アクションやミステリ映画では必ず悪役になるタイプである。差別主義者、金の亡者、パワハラ、セクハラ、不道徳。下品で卑しい面構え。大声で自己主張し、周囲を黙らせる。私はこういう権力者が大嫌いである。
 アメリカ人だって、トランプが好きなんて人はごくわずかだろうに。それが、大統領選で民主党のヒラリーに勝ってしまった。となると、こんな嫌なやつが世界でもトップの国、アメリカの大統領。そして独裁者。これからの世の中どうなるんだろう。
 不正を告発するドキュメンタリーというのは、主張は正しく立派であっても、内容が暗くてわかりにくく、退屈なものが多いが、マイケル・ムーアは、そういう社会問題、悪事のからくりをまるで娯楽番組のように面白く見せてくれる。多少の誇張はあるだろうが。
 今回は金儲けを国民の幸福よりも優先するトランプがアメリカ大統領になってしまった経緯をわかりやすく絵解きする。
 もうひとつはミシガン州の知事として権力を握った男が公共の水道を民営化し、不要な大工事で大儲けし、それがために地域の飲み水は鉛で汚染されたが、権力と金の力で嘘の発表を続け、長期にわたる公害で病人が多発した問題。
 権力者が堂々と悪事を行えば、通ってしまう。告発する役人は左遷か解雇され、批判するメディアは嘘つき呼ばわりされ、裁判になれば司法を味方で固める。
 マイケル・ムーアはトランプとヒトラーの類似点を次々と映像で示す。アメリカには民主主義はないのだ。そして、これは今に始まったことではなく、民主党オバマクリントンの汚い手口もちゃんと暴く。
 大人たちは諦めて選挙に行かないから、悪がのさばる。唯一の救いはまだ選挙権のない少年少女たちが団結して立ち上がる場面。アメリカに、世界に希望はあるのか。

 

華氏119/Fahrenheit 11/9
2018 アメリカ/公開2018
監督:マイケル・ムーア
ドキュメンタリー