シネコラム

第195回 フローズンタイム

第195回 フローズンタイム

平成二十年八月(2008)
高田馬場 早稲田松竹

 

 時間の感覚は個人的なもので、実際に同じ時間を過ごしていても、楽しいとあっという間に過ぎてしまったり、退屈だとなかなか進まなかったりする。それが極端になると、この映画のようなことが起きるかもしれない。
 主人公は美大で絵を学ぶ男子学生。ガールフレンドとの破局がもとで不眠症に陥り、別れた彼女を思い、眠れない日々。
 夜中の眠れない時間を持て余し、スーパーマーケットの夜間従業員のアルバイトを始めるのだが、そこで不思議な体験をする。
 周囲が急にスローモーションになったように感じるのだ。そしてとうとう、ある日、すべてが停止してしまう。
 動かなくなった深夜スーパーの買い物客と従業員たち。その間をゆっくりと歩く主人公。
 彼はどうするのか。そう、男なら考えつきそうなこと。美人客が多かったので、その服を脱がして全裸にする。そして、裸体の写生をするのだ。彼は画学生だから。
 もちろん、それ以上の行為には及ばない。
 そうこうするうち、やがて、新しい恋が、彼に訪れる。
 美しい女性の裸体に対する強い憧れをファンタジックなコメディとして描いた小品であり、裸になるのは、もちろん美女ばかり。
 監督は写真家のショーン・エリス。映像は美しく、見ているだけでうっとりする。まさに芸術写真。というか、昔から美術の世界では、絵画も彫刻も、美しく描かれた裸婦こそ、真の芸術であった。
 思い出したが、私が子供の頃、『不思議な少年』というTVドラマがあり、主人公の少年が「時間よ止まれ」と唱えると、周囲が動かなくなってしまう。子供たちの間で「時間よ止まれ」という呪文が流行った。原作は手塚治虫だった。

 

フローズンタイム/Cashback
2006 イギリス/公開2008
監督:ショーン・エリス
出演:ショーン・ビガースタッフ、エミリア・フォックス、ショーン・エヴァンス