シネコラム

第189回 ダイヤルMを廻せ!

第189回 ダイヤルMを廻せ!

平成八年四月(1996)
銀座 銀座文化

刑事コロンボ』がTVで放送されたとき、驚いたのは、ミステリなのに最初から犯人がわかっていることだった。それをコロンボがじわじわと追い詰める。倒叙ミステリである。
 ヒッチコック監督の『ダイヤルMを廻せ!』がこれ。
 ロンドンに住むトニーは、元はテニスの花形選手だったが、今は引退して財産家の妻マーゴのおかげでなんとか暮らしが立っている。
 ところが、そのマーゴがアメリカ人の推理作家でTV脚本家のマークと浮気していることに気づく。金持ちの妻と別れることになれば、今の贅沢な暮しは消えてなくなる。そこで妻の殺害を計画するのだ。妻が死ねば、その財産は自分のものになる。たまたま見かけた大学時代の先輩スワンが今は落ちぶれて小悪党になっている。それを呼び出し、大金で妻を殺してくれるように持ちかける。
 妻ひとりを残してマークと共にクラブのパーティに出かける。その間にスワンが忍び込み、トニーの電話で起きてきた妻を殺すという段取り。
 ところが現実は、計画通りにはいかない。トニーの腕時計が止まっていて、あわてて電話ボックスへ行くと先客がいて長電話していたり、ようやく電話で妻を起こすが、それを殺そうとしたスワンが逆に妻に殺されてしまう。そこで計画変更。
 浮気した妻が悪党のスワンに強請られ、これを呼び出して殺害したように見せかける。妻を法的に死刑にするために。状況は妻に不利であり、判決は死刑。が、そこに思わぬ落とし穴が。
 嫉妬から殺すのではなく、あくまでも財産欲しさで殺すというところが、かえって現実的。トニーの主観で物語が進むので、つい感情移入し、この計画殺人の成功を願ってしまう自分がいる。浮気した妻とその恋人が大きな顔をしているのはどんなものかと。

 

ダイヤルMを廻せ!/Dial M for Murder
1954 アメリカ/公開1954
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:レイ・ミランドグレイス・ケリー、ロバート・カミングス、ジョン・ウィリアムズ、アンソニー・ドーソン