第149回 小早川家の秋
平成元年二月(1989)
銀座 並木座
小津安二郎といえば、都会的に洗練されたイメージが強いが、この映画、いきなり、森繁久彌のあくの強い大阪弁で笑わされる。小津作品としては珍しい大阪ものなのだ。
中村鴈治郎の造酒屋の隠居が実に人間臭くて可愛くさえある。鴈治郎の長女が新珠三千代、その養子で造酒屋の若主人が小林桂樹、次女が司葉子、死んだ長男の未亡人が原節子、鴈治郎の古い愛人が浪花千栄子、それらの人々が造酒屋を中心に生き生きと描かれている。
やはり、適齢期の娘の結婚が話題になってはいる。次女の司葉子は親の決めた相手と見合いするが、スキーで知り合った若い学者、宝田明のことを好きなようだし、原節子は親戚加東大介から紹介された縁談の相手森繁久彌に全然興味を示さない。
だが、いつもの小津作品のように、父親が気を揉むわけでもない。父親は自分の色恋で精一杯なのだ。そして、とうとう愛人の家であっけなく死んでしまう。
古き良き時代の大阪の父親は、気楽で道楽者、好き勝手して、女房に甘えるだけ甘え、それでなんとかなっていた。鴈治郎はいつまでたっても幼児性が抜けきらず、ぼうっとしながらも、どこかこすっからいところのある大阪男を巧みに演じていたし、それをそのまま若くしたのが森繁久弥の鉄工所の社長である。
その分、大阪の商家の女はしっかりしていた。長女の新珠三千代は気の強い典型的な大阪女性を演じている。気は強いが、賢くて、やるべきことはきちんとやるのである。
中村鴈治郎、新珠三千代、司葉子、山茶花究、浪花千栄子など、関西系の俳優に思う存分演じさせて典型的な大阪を描きながら、全然大阪に見えないところが小津らしい。
小早川家の秋
1961
監督:小津安二郎
出演:中村鴈治郎、原節子、司葉子、新珠三千代、小林桂樹、森繁久弥、浪花千栄子、団令子、宝田明、山茶花究、加東大介、藤木悠