第141回 白い巨塔
令和元年七月(2019)
池袋 新文芸坐
一九六〇年代の大阪の大学病院。助教授の財前五郎は天才的な外科医として病院の内外から注目を集めており、三月で退官する第一外科の東教授の後任と目されていた。野心家の財前は言う。教授が大名なら医局員は足軽、助教授は足軽頭。教授と助教授とでは天と地ほど違う。なんとしてでも教授になってやる。
が、東教授は財前の自信過剰で傲岸不遜な態度、週刊誌などへの売名行為を嫌い、学外の優秀な医師を次期教授に推薦しようと画策する。
東教授の動きを察知した財前は産婦人科医院を経営する義父を通じて医師会に働きかけ、学内で力のある医学部長の鵜飼教授を味方に引き入れる。義父は言う。「なんぼや。なんぼあったら教授になれるねん」
次期教授の決定は医学部の教授三十一人の投票により行われるので、現金が飛び交い、教授たちは力関係や将来のポストなど、情実に動かされる。医師としての能力なら一番だが、人間性に欠ける財前が果たして教授になれるのか。
教授選挙で浮足立つ財前が同期で友人の里見助教授から第一内科の癌患者を委託され手術する。誠実で患者を第一に考える里見の意見を無視して、事前の検査をせずに執刀する。手術そのものは見事に成功しているが、その後、患者の容態が悪化し死亡する。患者への処置ははたして正しかったのか。患者側から訴えられ、誤診かどうかの裁判となる。
原作が山崎豊子の小説であり、大阪が舞台なので、登場人物の大半は関西人という設定である。
当時の大阪のインテリは公的な場所では関西訛りの標準語、私的な場所ではくだけた大阪弁を話す。田宮二郎の言葉の使い分けが実にリアルで完璧なのだ。
脇を固めるのが当時の新劇の名優ぞろい。こんなにも豪華な配役が可能であった六十年代。すばらしい時代であった。
白い巨塔
1966
監督:山本薩夫
出演:田宮二郎、東野英治郎、小沢栄太郎、加藤嘉、田村高廣、下絛正巳、船越英二、滝沢修、加藤武、高原駿雄、石山健二郎、長谷川待子、藤村志保、小川真由美、清水将夫、鈴木瑞穂