第130回 竜馬暗殺
原田芳雄といえば、七十年代の若者にとって、憧れのヒーローだった。反体制がかっこよかったあの時代、原田が演じるのはアナーキスト、やくざ、はみだし刑事、無頼の浪人や渡世人。映画館の客席で、それらのアウトローたちに、いつしか同化している自分がいた。
当時、原田芳雄主演のATG作品『竜馬暗殺』が観たくてたまらず、これは大阪の映画館では公開されなかったのか、あるいは短期間で知らないうちに終わってしまったのか。京都の三本立て映画館、宮本武蔵の決闘で有名な一乗寺にあった京一会館まで観に行った。
竜馬と中岡慎太郎が土佐なまりで語り合う場面の面白さ。
幕府が倒れたあと、結局、新しい権力者がそれにとって代わるだけなら、倒幕運動は成功といえるのか。竜馬はさらにその先、自分が権力の亡者にならないためにどうするのかと考え、それを中岡に語る。左翼学生が革命を語るように。
貴様は近目のくせに、いつも遠くを見たようなことを言う。
呆れる中岡慎太郎。演じるは石橋蓮司。
着物のふところから拳銃をのぞかせる竜馬。竜馬の汚い着物は、当時の若者の汚いジーンズそのものだった。
朝早くから出かけた京都。この日に観た三本立て、『竜馬暗殺』のあとの二本は『新幹線大爆破』と『東京エマニエル夫人』で、もちろん三本とも観て、映画館を出たら外は夜だった。
竜馬暗殺
1974
監督:黒木和雄
出演:原田芳雄、石橋蓮司、中川梨絵、松田優作、桃井かおり、田村亮、外波山文明、山谷初男、田中春男、平泉征、川村真樹