第112回 キツツキと雨
平成二十四年三月(2012)
新宿 角川シネマ新宿
世間では、ゾンビ映画というだけで、頭から馬鹿にする人が多い。が、ゾンビであろうと、純愛ものであろうと、社会派であろうと、作っている人の情熱や真面目さに違いはない。『カメラを止めるな』以前にも、ゾンビ映画作りの映画があった。
木曽の山中、チェーンソーで大木を切り倒して生業にしている木こりのおじさん、役所広司ふんする克彦。そこへひとりの男が駆け込んで来て、音を一瞬止めてくれと言う。映画の助監督で、近くで撮影しているので、その間。
翌日、エンコしている撮影隊の車に出会った克彦、親切心から助監督とその横にいる若い男を車に乗せてやる。この若い男、年上の助監督が動き回っているのに、ぼおっとして何もしない。そこで克彦、君はなんだ、なんで動かないんだ、とイラつきを爆発させる。この若い男が実は監督で、スタッフも俳優も自分よりベテラン、自分がどう動いたらいいかわからない。おそらく自主映画で注目されて、いくつか賞でも取って、初めて商業映画に抜擢されたのだろう。
早く山へ行って木を伐らなきゃならない。いつまでもこんな連中と付き合っていられるか。そう思っている克彦のところへ、また助監督が来て、頭を下げる。なんと木こりの作業着のまま、顔を青く塗られて、ゾンビの役でエキストラ出演。映画はゾンビものだった。
最初は迷惑だと思いながらも親切心から協力しているうちに、だんだんと映画作りが面白くなってくる克彦。なにひとつ思い通りに行かなくて、現場を逃げ出したくなる監督。年齢の離れた二人の間に、いつしか友情が生まれる。
克彦の世話で、エキストラに動員されて、嬉々としてゾンビを演じる村の人たち。
妻と死別し、息子と二人暮らしの克彦。定職につかない息子との間がぎくしゃくしているが、映画作りに一所懸命挑む若者と出会ったことで、息子への気持ちも少し変わってくる。ほっとする温かい一本。監督役は小栗旬である。
キツツキと雨
2012
監督:沖田修一
出演:役所広司、小栗旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治、嶋田久作、平田満、伊武雅刀、山崎努