シネコラム

第88回 追想

飯島一次の『映画に溺れて』

第88回 追想

平成二年六月(1990)
銀座 シャンゼリゼ

 

『追憶』というタイトルの映画、ネットで調べたら、六本あった。
 昔は外国映画も日本語のタイトルが普通で、漢字二文字の『哀愁』『慕情』『旅情』『旅愁』『昼顔』『卒業』『初恋』『情婦』『裏窓』『汚名』などなど。こういうのも、今ではみんな長いカタカナのタイトルになるのだろうか。それはともかく、『追憶』と似たタイトルに『追想』というのがあり、有名なのは一九五六年のアメリカ映画と一九七五年のフランス映画。
 アメリカ映画はイングリッド・バーグマンユル・ブリンナーが主演。
 ロシア革命により皇帝ニコライ二世とその家族は処刑される。ロマノフ一家銃殺の約十年後のパリで、皇女アナスタシアだけが生き延びたという噂が流れる。革命でロマノフ朝は滅んだが、国外にある莫大な資産は、もしロマノフの血筋がいれば、その者が相続できる。元ロシア軍人の詐欺師ボーニンが、噂を利用し、アナスタシアの偽者をでっちあげる。
 拾ったアンナという自殺未遂女。この精神病院から抜け出してきた女がアナスタシアに風貌がよく似ている。ボーニンはアンナを訓練し、アナスタシアに仕立てる。ただし、いくら似ていても、それだけでは遺産相続は難しい。
 ニコライ二世の母であるマリア皇太后は元デンマーク王女であり、革命の際、母国に脱出して生存している。ボーニンは一か八かの賭けに出て、アンナと皇太后を対面させる。実の祖母である皇太后が認めれば、本物としてのお墨付きとなるのだ。
 皇太后は頭から信用しておらず、少女時代のことを質問する。ボーニンは手に入る限りのあらゆる情報をアンナに詰め込んでいる。が、思いもかけない質問。教わってもいないのにすらすら答えるアンナ。
 ロシア革命後、実際にアナスタシアを名乗る偽者が現れたそうで、原作は舞台劇。のちにミュージカル仕立てのアニメーションも作られた。

 

追想/Anastasia
1956 アメリカ/公開1957
監督:アナトール・リトヴァク
出演:イングリッド・バーグマンユル・ブリンナー、ヘレン・ヘイズ、エイキム・タミロフ、フェリックス・エイルマー、サッシャ・ピトエフ、イヴァン・デニ