シネコラム

第75回 ドラえもん のび太のパラレル西遊記

第75回 ドラえもん のび太のパラレル西遊記

平成四年七月(1992)
池袋 テアトル池袋

 

 夏目雅子三蔵法師以来、日本で作られた西遊記はろくなものがない。原作の背景もなにもなく、ただ女三蔵が猿や河童を引き連れて妖怪退治の旅を続けるという、まるで水戸黄門漫遊記西遊記に置きかえただけの幼稚な子供だましである。
 そんな中で唯一まともなのがドラえもんの劇場版『ドラえもん のび太のパラレル西遊記』だ。
 ドラえもんは未来から来た猫型ロボットで、胸のポケットから出した万能の道具でのび太の夢をかなえてくれる。
 小学校の学芸会で西遊記を演じることになり、三蔵は女子のしずかちゃんである。ここでも女が三蔵法師か。がっかりと思ったが、いやいや、その後の展開が面白い。
 のび太たちはタイムマシンで実際に唐の時代の中国に行くが、そこには孫悟空は存在しない。そこでドラえもんの立体ゲーム機でのび太孫悟空に変身、ゲームの妖怪たちと戦うことになる。
 やがてゲーム機を唐に放置したまま、現代に戻ってくると、家にも学校にも妖怪がうようよ。スイッチを切り忘れたため、ゲーム機から出てきた牛魔王ら妖怪が、史実の玄奘三蔵を食い、人類は滅ぼされ、二十世紀は妖怪の支配するパラレルワールドになっていた。
 ドラえもんのび太たちは再び過去に戻って、食われる前の実在の玄奘と協力しながら、妖怪たちを退治する。その際、のび太孫悟空となるのだ。もちろん、現実の玄奘は女子ではなく、たくましい大男の唐僧であった。
 西遊記を題材にしながら、時間SFの面白さもあり、幼稚な学芸会の三蔵は女だが、史実ではちゃんと男であると主張している。私にはうれしい一本である。

 

ドラえもん のび太のパラレル西遊記
1988
監督:芝山努
アニメーション(声)大山のぶ代小原乃梨子野村道子たてかべ和也肝付兼太

 

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