森川雅美・詩

明治一五一年 第21回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第21回

人の名前が錯綜する
人の血筋が錯綜する境目の
あざなえる膿み爛れつづける
一八六八年のもう帰らない
意識がさらに繋ぐ
泥濘に深深と塗れる指先
を掴むいくつかの掌は
一八七七年のもう帰らない
積み重なる様様な歪な思いの
内に紛れつつ潰え
ことごとく散乱を続ける
一八九五年のもう帰らない
果てまで繰り返し踏み
人の時間が錯綜する
人の名残が錯綜する曇り空に
一八九六年のもう帰らない
荒荒しく吹き付ける横殴りの
風は奥底で罅割れ
儚い夢の最中に目覚める誰か
一九〇五年のもう帰らない
のさらに夢の中が
綴るどこまでも消えない
項垂れる暗い背に淀む
一九一八年のもう帰らない
今生の悲しみに結わく長長と
した細胞の連鎖を
人の悲鳴が錯綜する
一九一九年のもう帰らない
人の破損が錯綜する坂の
糾われる方方へと紡がれる手
の内側の意識まで這う
一九二三年のもう帰らない
果てのない血の横たわる
泥濘の途中へと朧な
紡ぎ続ける思いの浮きつ
一九三九年のもう帰らない
沈みつ漂う先の方角へ
壊れていく形代の
散り拡がりなおも微かに響き
一九四五年のもう帰らない
人の抜殻が錯綜する
人の想念が錯綜する窪地に
新たな体液が溢れ出し
一九九五年のもう帰らない
浸みていき古い影は弱り
縫いつづける人の名前
になる瘦せ細った光彩や
二〇一一年のもう帰らない
爪先に残された終らぬ
微かな痛みが膨らみ兆す
ここからの眺めが内側
二〇二一年のもう帰らない
の突起になる見えぬ眼も

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