森川雅美・詩

明治一五一年 第2回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第2回

 

牡丹雪が降る天上の
彼方の初めの一滴として
牡丹雪が降る人たち
の歩いた後を包むように
星のない空に手を
伸ばせば今日の日は終わり
残像が無数に連なっては
闇の奥に紛れていく
それはまだ拾えない遠い記憶
のかけらだから
願いも叶わぬまま
消えていかなければならず
弱りきり救いもなく
いくたびも繰り返される
牡丹雪は降る荒れた盆地の
街も埋れていくね
牡丹雪は降る終わりなく
繰り返す途切れたひ
帰らない多くの
人たちが透き通りながら過ぎ
なおも生きていた時間を
踏む音もなく閉ざす
それは今でも忘れられない
意識の奥の声だが
無数の悲鳴は消える
ことなく天の彼方に及ぶ
本当に静かだけどねと体の
中心が僅かに傾ぐ
牡丹雪が降る暗転する時代
のさらに奥深くへ
牡丹雪が降る静まりかえった
首都の道に淀み
はじめからの問いかけは
置き去りのまま閉じ
生きえなかった
足首たちを光の接点まで放つ
それは悪い夢が見る
遠い彼方につづく空のざ
行き場のないうすい人たち
だから重なり漂う
まだ終わらない細まりいく
背骨すらたどれず
牡丹雪は降る消えかけた声
の内に記憶を留め
牡丹雪は降る失われた人
の意識の欠片を綴り
日々続くかと思える安らぎ
はごく一瞬に滅び
まだ違う名残のうちだから
と耳に届く囁きに
なけなしの魂は発光する
凍えた空のゆがみだ
傷口はさらに深く
まで届くさと幾つも揺らぐ
消える目の内にまだ
現れぬ人の名前すら結ぶ

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