シネコラム

第559回 結婚のすべて

飯島一次の『映画に溺れて』

第559回 結婚のすべて

平成十一年九月(1999)
京橋 フィルムセンター大ホール

 

 岡本喜八の才能は光り輝いていた。というか、これこそ私好みの上質のコメディなのだ。なかなか日本映画には珍しい。
 まず太陽族映画の撮影場面から始まり、性風俗の乱れを嘆く場面をいろいろ描いて、結婚式へと入り、結婚をテーマに様々な問題が繰り広げられる。
 平凡な主婦啓子が新珠三千代、その夫で大学の哲学講師三郎が上原謙。上原は田舎訛り丸だしの冴えない学者馬鹿を好演。妻が新婚当時の思い出を懐かしく語っていると、いつの間にか鼾をかいている。
 啓子の妹で新劇の俳優養成所に通う康子が雪村いづみ。啓子と康子の父親は大企業の重役。康子は姉の結婚生活が本当に幸福なのかどうか疑問である。自分は姉のような見合いではなく、恋愛結婚を希望している。が、彼女が好意を持った学生は、酒場でアルバイトしながら学費を稼ぐ苦学生かと思えば、実は女を食いものにして貢がせる不良だった。
 姉の啓子に好意を持って近づく雑誌編集長の古賀が三橋達也。啓子は何を言っても張り合いのない夫が物足りなくて、古賀に誘われて酒を飲みダンスを踊るが、口説かれると怖くなって逃げ帰る。家では夫が子供を寝かせている。啓子は遅くなったのは妹と会っていたと言い訳するが、二階では康子がずっと姉を待っていた。啓子は嘘を夫に謝り、男性と酒を飲んだことを告白する。三郎は優しく、君が悪い時は僕が悪い時なんだと慰め、抱き合う。
 それを見ていた康子は、姉の結婚もそこそこに幸福なんだと悟り、父の紹介する見合い相手に会いに出かける。これが仲代達矢
 クレジットに名前はなかったが、新劇の稽古場の場面にちらっと登場する演出家の役が三船敏郎だったので、フィルムセンターの客席は大笑い。そういえば、三船敏郎岡本喜八監督と仲がよかったそうだ。

結婚のすべて
1958
監督:岡本喜八 
出演:雪村いづみ新珠三千代上原謙、小川虎之助、堺左千夫、小杉義男、三橋達也、塩沢登代路、白石奈緒美、仲代達矢、団令子、森啓子、藤木悠若水ヤエ子

 

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