シネコラム

第545回 暴力脱獄

飯島一次の『映画に溺れて』

第545回 暴力脱獄

令和五年一月(2023)
立川 キノシネマ立川

 

 私がポール・ニューマンを初めて観たのは一九七〇年代、『明日に向って撃て』が一番最初で、その次が『スティング』だった。どちらの役柄も美男でタフでダンディで、しかもユーモアがあり、ポール・ニューマンそのもののような気がした。
 ポール・ニューマンが反骨精神を体現した一九六〇年代のアメリカンニューシネマ『暴力脱獄』は『俺たちに明日はない』と同じ年に作られたが、長らく観る機会がなく、立川キノシネマのポール・ニューマン特集でようやく出会えた。
 真夜中、酔っぱらって路上のパーキングメーターを次々に壊している男。その場面に合わせて、タイトルや配役が流れる。原題「クール・ハンド・ルーク」は主人公のあだ名である。
 次が刑務所。炎天下の路上で草刈りをしている囚人たち。そこへ新入りの囚人を乗せた車が到着する。人数は六人以上か、あるいは未満かで賭けをする囚人。降りてきたのは四人だった。そのうちのひとりがパーキングメーターを壊して二年の実刑をくらったルーク・ジャクソン。ポール・ニューマンである。
 戦地で勲章をいくつか貰ったのに除隊後は定職に就かず、酔っぱらってふらふらと生きている。所長の訓示や看守のルール説明に、新入りのくせに一言多い生意気な態度。囚人の中で幅を利かせる喧嘩っ早いドラグラインに目をつけられて、いじめられるが平気で、へらへらしている。だからクールなのだ。
 囚人たちの日常は昼間の重労働、楽しみはちょっとした賭け事、看守に逆らうと過酷な独房に入れられ、脱獄すれば射殺。ボクシングやポーカーで打ち解けたドラグラインはルークがゆで玉子を一時間に五十個食べられるかの賭けの胴元になる。苦しみながらも平気で食べ続けるルーク。囚人たちに一目置かれるようになるルークだが、脱獄して逃亡し、逮捕されてまた舞い戻る繰り返し。後の『ロンゲストヤード』のバート・レイノルズや『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスに通じる刑務所のヒーローである。

暴力脱獄/Cool Hand Luke
1967 アメリカ/公開1968
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
出演:ポール・ニューマンジョージ・ケネディモーガン・ウッドワード、J・D・キャノン、ルー・アントニオ、ロバート・ドライヴァス、ストローザー・マーティン、ハリー・ディーン・スタントン、ルーク・アスキュー、デニス・ホッパー

 

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