シネコラム

第529回 脱出

第529回 脱出

昭和四十七年十月(1972)
大阪 難波 なんば大劇場

 

 ジョン・ブアマンの初体験は十代の終わりに観た『脱出』で、最初から最後まで緊張感の絶えない映画だった。
 ダム建設が始まり、水没予定の山奥の渓流に都会から四人の男がやってくる。こんなところに何しに来たんだと、彼らを胡散臭そうに見る村人の目は冷たい。
 四人の目的はほとんど人の手の入っていない自然の中の川下り。乗ってきた車を麓まで運んでほしいと村人と交渉する場面からして、ひやひやする。厳しい山村の暮らしを横目で見ながら、車に積んだ二艘のカヌーを川まで運び、いよいよ川を下る。
 温厚なエドと気性の荒いルイスは親友同士。これに横柄なボビーとインテリのドリューが加わり、二人一組でカヌーを漕ぐ。持参のアーチェリーで川の魚を獲って焼いて食べたり、テントで野宿。四人は大自然の危険な冒険を謳歌する。
 二日目、川岸に降りたエドとボビーが銃を持ったふたりの山男に襲われる。エドを拘束し、ボビーを弄ぶ山男。そこにルイスが到着し、山男のひとりをアーチェリーで射殺する。警察への通報を主張するドリューに反対し、結局、死体を埋めて隠蔽することに。どうせこのあたりはダムで沈んで証拠は残らないからと。
 川下りを続ける途中、ドリューがいきなり激流に飲みこまれ、ルイスは重症を負う。仕返しに来たらしい山男をエドが射殺する。が、ただの猟師かもしれない。
 ようやくたどり着いた下流の町で、警察が待っており、事情聴取される。都会人が遊び半分で自然をなめるな。とでも言いたいような警官の応対。
 エドが『真夜中のカウボーイ』のジョン・ヴォイト、ルイスがタフガイのバート・レイノルズ、どちらも当時三十過ぎの若手スターだった。知的で良識派のドリューがロニー・コックス。コックスはその後、『ロボコップ』でロボット企業の悪重役を憎々しく演じていた。
 山男に凌辱される太ったボビーがネッド・ビーティ。男が男に犯される場面、十代の私にはそれがなによりショックで、忘れられない。

 

脱出/Deliverance
1972 アメリカ/公開1972
監督:ジョン・ブアマン
出演:ジョン・ヴォイトバート・レイノルズネッド・ビーティ、ロニー・コックス