シネコラム

第512回 パリで一緒に

第512回 パリで一緒に

昭和六十三年六月(1988)
自由が丘 自由が丘武蔵野館

 

 ウィリアム・ホールデンオードリー・ヘプバーンが売れっ子脚本家とタイピストを演じるロマンティックコメディ。
 巴里祭で賑わうパリ。ハリウッドの脚本家リチャードが新作『エッフェル塔を盗んだ娘』執筆のため滞在している。原稿清書に雇われたタイピストのガブリエルがホテルを訪ねてくる。プロデューサーとの約束の期日が二日後に迫っており、二日で完全原稿を清書しなければならない。
 ガブリエルにどんなストーリーかと聞かれてリチャードは言う。アクション、サスペンス、ロマンス、コメディ、そして底辺には社会批判も。
 ところが驚いたことに、出来ているのはタイトルのみ。脚本は一行も進んでいない。白紙の原稿を床に並べながら、リチャードはガブリエルに思いついたストーリーを適当に語る。
 巴里祭で賑わうカフェでデートの相手を待つ若い女性ギャビー。現れたのはトニー・カーティスに似た自己陶酔型の売れない俳優モリス。急用ができたからデートはできないと去っていく。そこへ現れるのが謎の男リック。カフェの客たちが踊り出し、リックはギャビーと踊る。
 リチャードが語るストーリーのリックはリチャード自身、ギャビーはガブリエルのイメージに重なる。ガブリエルと語り合い、リチャードは物語をどんどん膨らませていく。リックは嘘つきの泥棒で、大きな仕事を計画している。それにギャビーが絡む。リックの大きな仕事とリチャードの脚本執筆とがさらに重なる。
 リチャードは言う。最も愛される人物はフランケンシュタインだ。人間を創造するか再生するかして、恋に落ちるか破滅する。『フランケンシュタイン』は『マイフェアレディ』と同じ話なんだ。結末が逆なだけで。
 ガブリエルは考え込んではっとする。イライザが怪物なのね。映画『マイフェアレディ』のイライザはオードリー・ヘプバーンが演じていた。

 

パリで一緒に/Paris When It Sizzles
1964 アメリカ/公開1964
監督:リチャード・クワイン
出演:オードリー・ヘプバーンウィリアム・ホールデンノエル・カワード、グレゴワール・アスラントニー・カーティス