シネコラム

第496回 バロン

第496回 バロン

平成元年十月(1989)
池袋 文芸坐

 

 ミュンヒハウゼン男爵はドイツに実在した人物。架空の冒険談を面白おかしく語り、やがてその聞き書きが尾ひれをつけて出版され、世界各国で有名になった。このほら男爵を主人公にテリー・ギリアムが監督。
 十八世紀末、トルコの侵攻を受けるドイツの港町。町の劇場で演じられているのがミュンヒハウゼン男爵の冒険物語。その舞台にひとりの老人が割り込んでくる。われこそは本物のミュンヒハウゼン男爵であり、こんな茶番は許せないと抗議する。そして観客を前に語り始める。トルコ軍が攻めてくる本当の理由、それは自分のせいだと。
 かつて四人の特殊能力を持つ家来を使って、サルタンとの賭けに勝ち、宝物庫の財宝をことごとく持ち去ったので、今もトルコ軍から命を狙われている。
 そこで今回のトルコ軍の攻撃を食い止めるため、二十年前に別れた四人の家来を探し出す新たな冒険が始まる。
 女性の下着をつなぎあわせて作った気球で月へ行ったり、火山に落下してヴァルカンとヴィーナスに出会ったり、怪魚に食われて腹の中で家来と再会したり。
 現実よりも空想を愛するミュンヒハウゼン男爵はテリー・ギリアムのライフワークともいえるドン・キホーテに通じる。
 男爵と行動をともにする座長の幼い娘が子役時代のサラ・ポーリー。貝殻から全裸で登場する美神ヴィーナスがユマ・サーマン。武器製造の神ヴァルカンがオリヴァー・リード。単独で敵地に乗り込み味方を救い出した勇敢な兵士を規律違反で処刑する杓子定規な長官がジョナサン・プライス。その兵士がノンクレジットのスティング。月の王がロビン・ウィリアムズ。そして俊足すぎて足に鉄の玉を鎖でくくりつけているのがエリック・アイドル
 豪華キャストによるファンタジーであり、モンティ・パイソン時代の馬鹿馬鹿しさはかなり抑えられている。

 

バロン/The Adventures of Baron Munchausen
1988 イギリス/公開1989
監督:テリー・ギリアム
出演:ジョン・ネヴィルサラ・ポーリーエリック・アイドルオリヴァー・リードユマ・サーマンジョナサン・プライス、ヴァレンティナ・コルテーゼ、ロビン・ウィリアムズ