シネコラム

第491回 シンドラーのリスト

第491回 シンドラーのリスト

平成六年三月(1994)
渋谷 渋東シネタワー2

 相次いで娯楽作品を世に出しヒットさせたスティーヴン・スピルバーグが作った『シンドラーのリスト』は執念の一作といえるだろう。ハリウッドの映画人にはユダヤ系が多く、スピルバーグもまたユダヤ系である。
 小さな町工場の息子オスカー・シンドラーは調子のいい男で、一旗揚げようとポーランドにやってくる。ちょうど戦争が勃発し、ユダヤ人の迫害が始まると、シンドラーはこれに目をつけ、ナチス高官に取り入り、軍需工場を開く。シンドラー自身、ナチス党員なのだ。ゲットーのユダヤ商人たちから資本金を引き出し、安い労働力としてユダヤ人を働かせる。
 やがてゲットーが廃止され、ユダヤ人たちは強制収容所に入れられ、選り分けられて、最終処理場のアウシュビッツへの移送が始まる。シンドラーナチス高官に多額の賄賂を送り、収容所のユダヤ人を労働力として工場で働かせることを承諾させる。
 戦局が悪化し、いよいよユダヤ人を全員アウシュビッツに送ることが決定する。戦争成金として巨万の富を得たシンドラーは札束の詰まった鞄とともに故郷へ錦を飾り、ユダヤ人たちはガス室へ。だが、シンドラーはあることを思いつく。チェコに新しい工場を建て、そこでユダヤ人を働かせよう。札束の力でナチス高官を承諾させ、ユダヤ人の工場支配人とともに名簿作りが始まり、選ばれたユダヤ人はアウシュビッツではなく、チェコの工場に送られ生き延びる。多額の賄賂と形だけで機能しない軍需工場の経営でシンドラーはついに無一文になるが、それと同時に終戦を迎える。
 シンドラーは最初、金儲けにユダヤ人を利用しただけだった。だが、あまりの悲惨さに、彼らを助ける気になった。工員として引き取られたユダヤ人は千人以上。感謝されながらシンドラーは努力が足りなかったと嘆くのだ。もっともっと努力すれば、もっともっと多くの人が助けられたのに。自分はそうしなかったと。
 ホロコーストという重い内容をスピルバーグは娯楽作品で鍛えた手法を駆使して見応えのある作品にしている。

 

シンドラーのリスト/Schindler’s List
1993 アメリカ/公開1994
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:リーアム・ニーソンベン・キングズレーレイフ・ファインズ、キャロライン・グッドール、エンベス・デイヴィッツ