「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!
第8話
武士の査定簿!?
『「戦闘報告書」が語る日本中世の戦場 鎌倉最末期から江戸初期まで』
鈴木眞哉
ここだけの話、わたしには会社勤めの経験がある。
お世辞にも仕事のできる社員ではなかったし、客先での受けもあまりよくなく、よくぞまあ馘首されなかったものだと思っている次第だ。そんなダメ社員であったわたしには年に二回、憂鬱なことがあった。いわゆるボーナス査定である。広い会議室にぽつんと座らされ、自分の功績を列挙せよと上司に迫られ、背中に嫌な汗をかきながら必死で自分のいいところ探しをするという地獄絵図は二度と御免である。
これをお読みの皆様、実は戦国時代にも、似た光景があったのをご存じであろうか。
本回紹介するのは『「戦闘報告書」が語る日本中世の戦場』(鈴木眞哉/著、洋泉社)である。本書は古文書に残る戦場での負傷・死亡記録をもとに、有力であった武器は何であったか、そしてその上でどのような戦闘法が展開されていたのかを復元しようという試みのもとに展開されている。計量的な調査なので読者に数字が提示されるのであるが、わたしたちの想像を裏切る結果なのである。
武士といえば槍や刀を手に敵と切り結ぶというイメージを持たれるかもしれないが、どんな時期であっても刀槍での死亡負傷例は少なく、矢や鉄炮などでのそれが圧倒的に多いという結果になっている。武士たちが白兵戦ではなく、飛び道具を使って戦っていたという事情をうかがわせるわけだ。
我々のイメージをぶっ壊すこの報告も面白いが、わたしが非常に面白く感じたのは、当時の武士たちが現代のビジネスパーソンのように上司から査定を受けている様である。
ちょっとマニアックな話になるが、武士たちは自分の軍功を書き記した「軍忠状」「手負注文」などの注文を主君に提出し、主君はその軍功を認める「感状」を武士たちに与えることになっていた(この辺りのことは本書に詳しい)。本書はこの武士と主君のやりとりにも随分と筆を割き、武士たちが苦心しながら軍忠状を作っているだろう様や、主君の側がポイントの高い行動を設定してやり、武士たちを督励している様を指摘している。その中で、現場にいるのに戦に参加しなかった武士があれこれと言い訳を考えて提出した軍忠状が紹介されており、そのくだりを読んだとき、「ああ、昔にもこんな人がいたのだなあ」と変な感慨を抱いてしまった。もちろん武士は命を懸けているわけだから現代人のわたしと比べられるのは心外だろうが、実に人間臭い。戦の日々を送っていた武士とて、普通の人もいたことがわかる本なのである。
刊行日:2015年7月11日
価格:1,700円+税