「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!
第7話
歴史の主役は人とは限らない!
『トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』
藤原辰史
人類史は偉人の決断に左右されてきた、という歴史観は、もはや過去のものであるといってもいい。
偉人の決断の前提には様々な因子がある。一説によれば、フランス革命の引き金の一つに、当時北半球を覆っていた小氷期(氷河期の小型版のようなものと考えるといいだろう)の存在があったという。小氷期になったことでヨーロッパの平均気温が下がって作物の減収が起こり、村が疲弊したことで社会全体にブルボン王朝への不満が高まりあの革命へと至った、という、「風が吹けば桶屋が儲かる」式の筋書きである。この説の真偽はさておき、歴史の主役は必ずしも人ばかりではないということがお分かりになるだろう。
さて、今回紹介するのは『トラクターの世界史 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』(藤原辰史/著、中公新書)である。外燃機関・内燃機関が開発され、その機構を農業に転用しようという発想が生まれたところから始まる壮大なテーマ史を扱った書籍である。
トラクターと聞いて、「世界史と関係があるの?」と疑問に思う向きがあるだろう。だが、大ありである。トラクターが開発される前、人類は手で、あるいは家畜で畑を耕していた。しかし、トラクターの開発によってより効率的に畑を耕せるようになり、畑作従事者の削減が進み、さらに家畜の餌である牧草地も必要なくなった。その代償として石油と肥料が農村にもたらされることになるのだが、いずれにしてもトラクターは、グローバリゼーションの波と近代国家との強固な結びつきを農村にもたらしたのである。
それだけではない。トラクターはやがてある種の“信仰”のアイコンとしても称揚されるようになり、盛んに文学作品にもイメージが借用されるようになる。世界の近代において、トラクターはただの道具ではない。古き良き時代を破壊する悪魔であり、新たな時代の到来を告げる雄鶏でもあったのだ。
良くも悪くもトラクターは我々の社会構造や文化を大きく変革させたが、発明者はそこまで見越していただろうか? より良き明日を目指した開発者たちの精華は、やがて彼らの願いをも飛び越えて冷戦の壁を突き抜け、気付けば世界の構造をも変えていたのである。
分かりづらい? いや、これこそが歴史の醍醐味なのである。
偉人の決断を山場にして叙述する歴史は確かに見ごたえがある。しかし、そこに“わたしたち”は参画できない。なぜなら、“わたしたち”は普通の人だからだ。本書は、普通の人である“わたしたち”もまた、歴史を切り開く一人一人なのだということを教えてくれる。
出版社:中央公論新社
刊行日:2017年9月20日
価格:860円+税