赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第4話

歴史創作に関わった人々の悪戦苦闘!



時代劇の「嘘」と「演出」
 安田清人/著

 歴史創作は良質な嘘により構成される。こんな言い方をすると怒られそうだが、揺るがしようのない事実だ。本格歴史小説(この言い方は個人的には好きではないが)の中では、歴史上の人物が思考し他の登場人物と会話をしているわけだが、そうやって構成された物の多くは著者の創作である。もちろん作家は歴史的事実をもとに登場人物の心情をそんたくした上で肉付けしてゆくものだが、その忖度が「歴史的に正しいか」どうかは究極的には担保されていない。本格歴史小説といえども、小説である以上はフィクションなのである。筆者はそれを批判したいわけではない。むしろ、歴史・時代小説をはじめとした歴史創作は、歴史的事実と作家(製作者)の創意工夫のあわいを楽しむものなのだ。
 そんな歴史・時代小説の読み方に関して示唆を与えてくれそうな本が最近じょうされた。『時代劇の「嘘」と「演出」』安田清人、洋泉社)である。歴史系編集者として学術本から小説まで担当してきた著者が、時代劇や歴史小説などの創作物で起こった歴史的事実との衝突や折り合いを経て、どのように作品としての完成度を高めていったのかを紹介している。
 本書はどこから読んでも面白い(なんと特撮ヒーローものと時代劇の関係を論じたくだりもある!)のだが、個人的にはむらえんぎょもりせんぞういながきせいといった時代劇黄金期の考証家たちのくだりが興味深かった。彼ら個別の事績を論じた本は山ほどあれど、彼らの役割や立ち位置を時代劇黄金期と絡めながらプロットしていく本はありそうでなかったと言える。考証家たちはやがて敬遠されていくこととなるのだが、本書の著者はそれでもこの時代の考証家たちへの賛辞を忘れていない。そして、考証家たちが守ろうとしていたものは、今でも息づいている。ただ、その一方で歴史創作がげんがく的になってしまったという面も否めない。戦後の歴史小説が教養として読まれるようになり、歴史的事実であるかのように受容されてしまった経緯にも筆を割いており、実にフェアである。
 先に「歴史創作は、歴史的事実と作家(製作者)の創意工夫のあわいを楽しむもの」と書いた。歴史的事実を欠いた歴史創作など存在しえないし、製作者の創意工夫のない歴史創作などあり得ない。歴史創作は常にその二者の間を行ったり来たりしながら発展してきたのである。本書は様々な形で歴史創作に関わった人々の悪戦苦闘がつづられているのである。

出版社:洋泉社
刊行日:2017年8月3日
価格:950円+税

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[平成29年(2017)9月6日]

赤佐汰那の書見台

赤佐 汰那

あかさ たな

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