赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第19話

明るい明治? 暗い昭和?
『生きづらい明治社会』



生きづらい明治社会 不安と競争の時代』
 松沢裕作/著

 個人的に、歴史小説や時代小説に求めているものの一つに「歴史観」がある。著者さんがその時代をどう捉えているのか、どういう問題意識でもってその時代を捕まえているのかをうかがい知れるシーンがあったりすると、歴史小説を読んでいるなあ、という気分にさせられるものである。逆を言えば、歴史観のない歴史・時代小説は、現代人がちょんまげかつらを被って演じている安いお芝居になってしまう、ともいえる。(無批判にこの言葉を用いるのは勇気のいることだが)「往時の心性」をいかに提示し、作品世界に織り込むのかも歴史・時代小説の醍醐味であろう。
 ただ一方、この「心性」というやつがかなり厄介なものでもある。司馬遼太郎はこの「心性」を描くことに秀でた作家であるといえるが、作家の描き出す「心性」は作家としての主張に影響され、実物とはかけ離れているものである。たとえば、司馬史観における「明るい明治・暗い昭和」などはその一例だろう。
 果たして明治は明るい時代であったのか――? そんな疑問に答える一冊が出た。『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』松沢裕作/著、岩波ジュニア新書)である。本書は青少年向けの書籍レーベルから出ており平易な記述に終始しているが、大人が読んでも十分に面白い。近代史の大枠を知りたいという方の最初の一冊なりうる本である。
 本書は一般に封建制度の時代が終わり、近代化の階を登り始めた明治という時代の実相を主に下層民たちの動向を軸に再検討するという本になっている。詳しくは本書に譲るが、封建社会から近代社会への変化と共に一人一人が「活躍」しなければならなくなった現状や、「努力をすれば必ず道は開ける」という道徳観念(本書では「通俗道徳」と称呼)の負の側面が語られる。本書を読み進めるうちに、明治という時代の過酷さが浮かび上がるとともに、実はこの過酷さは現代にも一部通じる面があるのでは……と思わせる、というよりは、様々な留保が必要であることを明言しつつオーバーラップさせている。読者の中には「結論を急ぎ過ぎではないか」という向きもあるだろうが、明治の心性を浮かび上がらせるという目的に沿っているともいえる。
 よくわたしは「小説における歴史観は出汁のようなもの」だと言っている。確かに出汁そのものには味はないのだが、これがあるとないでは料理の味が大きく変わる。実作者も「出汁の取り方」を知るべきであるし、読者も「時代の出汁」の味を知っておくと、その時代の小説を読んだとき、より深い読解ができるはずである。

発売元:岩波書店
レーベル:岩波ジュニア新書
刊行日:2018年9月21日
価格:800円+税
判型:新書判

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[平成30年(2018)12月25日]

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あかさ たな

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