赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第18話

嘘ぎりぎりの脚色を楽しむ
『フェアレディZ 開発の記録』



フェアレディZ 開発の記録 売れるスポーツカーを作ろうと思った』
 植村齊/著

 わたしはこのコラムにおいて、手を変え品を変えて「歴史・時代小説はフィクションであることに立脚している」と言い続けている。歴史・時代「小説」からフィクション成分を抜いてしまえば、「歴史(学)」「歴史(的なエッセイ)」になってしまう。歴史・時代小説は史実という事実に依拠しながら、究極のところでは嘘をつかなくてはならないというアンビバレントなことをやっている、ともいえるだろう。だからこそ、歴史・時代小説を読む際には、そこに書かれているものを百パーセントの史実だと考えてはいけないし、むしろ著者のついた嘘を嘘と知りつつ乗り、その上で楽しんでやるくらいの心の余裕が必要なのかもしれない。
 前置きが長くなった。今回紹介する本はこちら、『フェアレディZ開発の記録 売れるスポーツカーを作ろうと思った』植村齊/著、東京図書出版)である。本書は名作の誉れ高いフェアレディZを開発した技術者による回顧録である(なお、現在、紙の本ではプレミア価格がついてしまっているのだが、kindleなら500円で購入できる)。
 なぜ歴史・時代小説でフェアレディZ? きっとこれをお読みの皆さんは首をかしげていることだろう。実際本書はメーカーの苦闘の記録であり、一見しただけではこのコラムで紹介するような本ではない。
 実は本書の(本コラム的な)読みどころは前書きにこそある。
 フェアレディZは車に疎いわたしですら名前を耳にしたことのある名車である。であるからには、当然この開発秘話を聞きたがる人は多いわけで……。前書きにおいて、著者さんは某有名企業開発ドキュメンタリー番組(本書内では実名)の取材を受けた時の逸話を暴露している。何でも、テレビ番組として面白くするために、事態や“登場人物”を整理したり、絵的な問題で逸話に色付けをしたりといった操作があったようである。
 ここで、わたしは某番組の番組作りを批判するつもりはないどころか、むしろ大いに参考になるのではないかと思っている。テレビ番組はまず面白くなければならない。それゆえに、かなりどぎつい、嘘ぎりぎりの脚色をしている。確かに、事実を知りたい人にとっては害悪かもしれない。だが、一時の娯楽を求めている人にとっては?
 歴史・時代小説を書こうと志している皆さんには、ぜひ考えていただきたいのだ。歴史そのままで書いてしまっては、「小説」ではなくなる。「小説」であるために、小説を書く人間は何をしなくてはならないのか。そのヒントが本書には(逆照射の形ではあるとはいえ)凝縮されているのである。

発行元:東京図書出版
発売元:リフレ出版出版社
刊行日:2014年6月10日
価格:1,500円+税
判型:単行本

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[平成30年(2018)11月2日]

赤佐汰那の書見台

赤佐 汰那

あかさ たな

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