赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第16話

マネキンに着せてみた
『日本服飾史』



『日本服飾史 男性編・女性編[趣]
 井筒雅風/著

 ここのところ、このコラム、妙に高踏的、というか、意識高い系になってしまっており、一人罪悪感を抱いている。なんだか申し訳ない。
 というわけで、今回からは初心に返り、普通に資料として使える本を紹介しようと心に決めた次第である。というわけで、過去数回のコラムについてはお許し願いたい。
 さて、今回紹介するのは『日本服飾史 男性編[趣]』『同 女性編[趣]』井筒雅風/著、光村推古書院)である。二冊揃えて新刊で7,000円弱、合計600頁を超える大著であるが、金額以外のことは心配しないでほしい。本書は図版が多く、一読するのにそこまで時間はかからないはずだ。
 本書は日本の服飾研究の大家であり、京都の風俗博物館の館長であった著者の旧著を分冊して再販したものである。
 なんと、本書の書き起こしは弥生時代である。数少ない文献資料や発掘資料を基に三次元的に(つまりマネキンに着せて)掲載している。また、意外に我々の側からするとイメージのない推古朝から平安初期の、隋唐の影響を受けた装束に関してもかなり紙幅を割いており、貴族と雖も衣冠束帯に女房装束、要はひな人形のような恰好をしていたわけではなかったのだと知ることができよう。
 また、本書の特徴として、さまざまな階層や立場の装束を復元していることである。平安期の武官装束、僧兵、物売りの女性、虚無僧、明治期に定められた大礼服などなど、とにかくバラエティに富んでおり、マネキンに着せていることで臨場感も抜群。現物資料を見せられただけではイメージしにくい、服として使用されている姿を垣間見ることができる。
 本書が素晴らしいのは、この手の本では割愛されがちな後姿もしっかり掲載されていることだ。衣冠束帯の前姿を想像できる人は多かろうが、後姿はそうそう想像できないのではないだろうか。もちろん本書には衣冠束帯の後姿も掲載されている。気になった人はぜひ本書を手に取っていただきたい。
 イラストレーターの方や漫画家の方にはいい資料であることはもちろんであるし、小説を書く人にとっても良い資料であることは間違いない。小説を書く際、「ああいうとき、あの登場人物はどういう服を着ていたんだ?」と疑問になった時、本書はその疑問に答え得るだけの情報を有している。さらには、着ている服がどういうものだったのかを知ることで、小説に臨場感を植え付けることができる。
 唯一弱点があるとすれば、本書をすべて読み終えると、京都の風俗博物館に行きたくなってしまうことだろう。しかも、風俗博物館は2019年2月3日までお休みらしい。今手に取ってしまうとしばらくじりじりと生殺しに遭ってしまうが、よい本であることに変わりはない。購入をお勧めする一冊だ。

出版社:光村推古書院
刊行日:2015年4月6日
価格:2,980円+税
判型:単行本
※各編ともに

『日本服飾史 男性編[趣]』

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『日本服飾史 女性編[趣]』

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[平成30年(2018)9月10日]

赤佐汰那の書見台

赤佐 汰那

あかさ たな

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