「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!
第13話
“概念”を復元する
『宗教で読む戦国時代』
『宗教で読む戦国時代』
神田千里
『○○は天道に反する行ないをしたがために破滅の道に進んだのである……』
もちろん原史料ではもっと難しい古風な言い回しをしているわけだが、現代の学者さんの訳文を読んでいても、現代人の我々には判然としない部分がある。
天道というけれど、それってなんだ?
歴史を勉強するにあたって痛感するのは、当時の“概念”を復元する難しさだ。社会通念や社会の皆が共有している空気感は、史料にダイレクトに記載されているものではない。史料の行間から浮かび上がる当時の人々の思想の切れ端や行動パターンを積み上げて推測してやることでしか全体像が見えてこないのだ。ここで問題にしている「天道」という概念もまた、そうした性質の、極めてアンビジブルな概念である。
どこかにこの天道について説明してくれている本はないかなと思い探したところ、見つけた。『宗教で読む戦国時代』(神田千里/著、講談社選書メチエ)である。この本は戦国期に流入しながら近世社会からは弾かれてしまったキリシタン信仰を軸に、戦国期の信仰の形を考察している。
本書はなかなか野心的だ。中世から近世への遷移について詳しい人ならばご理解いただけようが、一般に近世に至る過渡期の際に武家政権は寺社勢力から様々な権限を取り上げて一元的な政治勢力を築き上げたとされている。しかし本書はその枠組みに対しても疑問を呈し、実は近世に至ってもなお、寺社勢力の権限を奪い切ることができなかったと論じている。また、寺社勢力が長い時をかけて作り上げ、一般の人々にも共有されていた「天道」の概念もまた近世にまで持ち越された。キリシタン信仰はこの「天道」と真っ向から対立する教義を有していたがゆえに日本から排除されてしまった、というのが本書の論旨である。
日本の「天道」とはいかなる概念なのか。そして、その「天道」と対立するキリシタン信仰の教義とは何かについては本書をご覧いただきたい。
近代に入り、日本人の宗教観は二転三転してきたといってもいい。国家神道の成立、現世利益を追求する新興宗教団体の勃興、そして宗教離れに墓離れ……。それゆえに、現代日本人は宗教観について疎いところがあり、想像を働かせることも難しい。本書は「過去の日本人の宗教観」という、色々な意味で想像しがたいものについて考察し、我々に考えるよすがを与えてくれる、そんな好著である。
刊行日:2010年2月11日
価格:1,600円+税
判型:講談社選書メチエ