赤佐汰那の書見台 赤佐汰那

「戦国や江戸って、どんな時代なの?」「昔の人たちが喋っていた言葉とか、食べていた料理とか、着ていた服とか、まったく想像できない⁉︎」「時代劇はどこまで本当なんだろう?」などなど。
 とどのつまり、「歴史時代小説をもっと愉しみたい!」、常々そう思っているあなたのために贈るのが、このコーナーです。
 歴史時代作家を目指す人たちも必読、デビューの近道となるかもしれませんよ!

第10話

歴史時代小説の花、それは剣戟!



『剣道五百年史』
富永堅吾/著

 歴史時代小説の花といえば、誰が何と言おうと剣戟シーンである。
 時代小説における主人公は旗本の三男坊だろうが殿様だろうがはたまた絵描きだろうが文化人だろうが何らかの剣術を修めていて、浪人風情には後れを取らない実力者という設定であることが多い。歴史小説、特に戦国時代の小説にあっては戦描写が多いため、特に武芸で名が知られていない人物でも達者に剣を振り、槍を繰って戦場をかけ回るものである。これは、特に時代小説が大衆小説の直系文化であることとも関係しているが、いずれにしても剣戟シーンはハードボイルド小説における愛銃描写のごとく、登場人物のキャラクターを示すアイコンとしてすらも機能するのである。
 そんな歴史、時代小説を紐解くときに、ふと剣術流派の名前が出てきて戸惑ったことはないだろうか。どんな剣術の流派なのだろう、とか、いつごろからこの剣術は存在するのだろう、と。実は剣術関連の本は細々とながら連綿と刊行され続けているジャンルの書籍なのだが、意外にも剣術流派のほとんどをカバーする本は案外ない。そこで今回ご紹介するのがこちら、『剣道五百年史』富永堅吾/著、旧版/百泉書房、復刻新版/島津書房)である。……実はいつもはそれなりに手に入れやすい本を紹介しているつもりなのだが、本書は旧版新版ともに稀覯本であるという点、平にお許しいただきたい。古書店でもかなりの値段がするため、公立図書館などでお見かけの際に閲覧すると良いだろう。
 本書は五百余流派はあると言われる日本の剣術流派を整理し、ある流派がどの流派の影響を受けて成立したのか、どのように受容されていったのかが記されている事典のような趣を持っている。剣術の黎明期である平安~室町時代、少しずつ流派が増えていく戦国時代、剣術流派が花盛りになる江戸前期、竹刀などの道具の開発で撃剣稽古ができるようになり隆盛を誇る江戸時代後期、そして、統一的な撃剣のルールが模索されて誕生した、競技としての剣道。現代にまで続く日本人と剣術との長い付き合いが見えてくる本である。
 歴史時代小説家がテキストの中に剣術流派をあえて出すときには何らかの作為がある。剣術流派の持つ歴史や受容のされ方などを借景とし、その剣術を遣う(正確には修めた)人間がどういう人物なのかを表現したいのである。より深く歴史時代小説を楽しまれたいあなたはもちろん、これから歴史時代小説を書こうともくろんでいるあなたにとっても、本書は有益な読書となるだろう。

出版社:旧版/百泉書房、復刻新版/島津書房
刊行日:旧版/1972年、復刻新版/1996年4月
価格:旧版/調査中、復刻新版/9,515円+税
※書影は百泉書房版です。

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[平成30年(2018)3月2日]

赤佐汰那の書見台

赤佐 汰那

あかさ たな

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