峠道で茶屋を商っている老夫婦の茂兵衛ときよは、そろそろ歳のせいもあって山で過ごす毎日がつらくなってきている。国一番の回船問屋に暖簾分けを許された長男は四人の孫と一緒に暮らそうと言ってくれているし、嫁も行き届いた娘なのだが、茂兵衛は世話になるかどうか悩みあぐねていた。そんなある日、旅装の侍が茶屋にあらわれ……。『真珠湾の暁』(2002年11月、徳間文庫)に収録された幻の短篇小説。
第1話
葉桜
茂兵衛は女房のきよと一緒に作倉峠の茶屋を
それでも若い
しかしだんだんと冬を越すのがつらくなってきた。夫婦でどうしたものかと案じていた時、御城下で独り立ちしていた長男がせめて半年は一緒に暮らそうと言ってよこした。長男の伊蔵は茶屋を継ぐことを嫌い、親族の
冬のあいだとはいえ、息子の世話になることについて茂兵衛は迷いがあったが、きよに押し切られた。きよは息子の成功を素直に喜んでいたし、四人の孫と会えることをなによりも楽しみにしていた。嫁のおかげもあったかもしれない。伊蔵の嫁は大洲屋主人吉蔵が探してくれた身元の確かな、
冬のあいだ、商人としての
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