第1話
序章
「おのれ、
激しい怒りをぶつける怒声に、金襴豪華な屏風が倒れ、
討手が住吉明神から賜りし神酒をまんまと呑まされた鬼は、身動きを封じられたまま仰向けに倒れ、燃えるように赤い肌を打ち震わせている。
耳まで裂けた口から泡を噴き、鋭い牙を見せてくいしばる鬼の喉元に、青みがかった鋭い刃が向けられた。
「
落ち着き払った口調でいうや、振り上げた太刀を打ち下ろした。
胴体から刎ね飛ばされた首が、床を転がった。その刹那、金色の目をかっと光らせた酒呑童子の首が宙に浮き、頼光めがけて飛んだ。
鋭い牙で食いつかんとした酒呑童子の首を、頼光は、熊野権現から賜った御幣で受け止めた。
「えぇい!」
御幣に気を入れて、酒呑童子の首を床に叩きつけたところ、金色の目は見る間に輝きを失い、ぴくりとも動かなくなった。
「酒呑の首、
大声をあげて首を掲げるや、館に渦巻いていた邪悪な気配が消え、黒雲に覆われていた空が割れ、光明が差し込んだ。
「桶をこれへ」
頼光が命じると、
血が滴る首を桶に投げ入れた頼光は、大きな息を吐いて床に座った。
血に汚れた顔を拭い、家来どもを見回す。
渡辺綱、
剛勇で名が知れた家来は、皆傷つき、疲れ果てていた。
その者たちの背後には、討取られた鬼どもが骸を曝していたが、酒呑童子の首を桐の桶に封じると同時に、土の中に染み込んで消えた。
都に降りては姫を攫い、村村を襲って民を苦しめる酒呑童子を討てとの
神酒が入った徳利を口に運んだ頼光は、己の太刀に吹きかけて清めると、切先を天に突き上げた。
「酒呑の首を刎ねたわが太刀
「天下の宝刀ですな、大将」
渡辺綱が言い、桶に魔封じの札を貼って封印した。
「宝刀と申せば、酒呑も持っていたはず」坂田金時が、思い出したと言った。
「おお、鉄をも切り割ると名高い、
卜部季武が身を乗り出し、
「さよう」
坂田金時が、横たわる酒呑童子の骸を探った。金糸が使われた着物を探るが、噂の刀は見つからない。
「何処にもござらぬな」
「首と共に帝に献上奉れば、お喜びになろう。みなで手分けして、館を探せ」
頼光の命で館中を探したが、金銀や珊瑚といった財宝は山のごとく見つかれども、結局、童子丸は見つからなかった。