本タイトルは、江戸時代後期に生きた曹洞宗の僧侶である良寛法師の言葉、「優游復優游 ゆうゆうまたゆうゆう」にちなんで、先生ご自身が名付けられた。
 越後国の産で、生涯放浪の多かった良寛法師は、歌人でもあり、漢詩人でもあり、また書家でもあった。
 故郷を同じくする作家の漫筆録。

第9話

ほだしほだされ

 きずなという字はおもしろい。絆に「す」を付けて「ほだす」と読む。誰かが言っていたことだが、作家と編集者は「ほだす」「ほだされる」の関係を積みかさねたすえに、ようやくにして絆を深めていくものらしい。絆とはいっちょういっせきに築かれるものではない。されど、とおもう。忍耐強く待ってくれる編集者が、いったいどれだけいるのだろう。まず、入り口をきつく締めておくと、たいていは逃げる。マーキングのようにつばをつけるだけで逃げてしまう。入ってきてくれればよいのにともおもうが、面倒臭いのでそのままにしてしまう。もちろん、たいになれば嫌われる。×を付けられ、仕事はこなくなる。仕事無しの恐怖が推進力となり、必死になって期待にこたえようとする。よいものができればめられ、そうでもなければ沈黙される。情熱を感じるのは、片っ端から拙著を読んでくれる編集者だ。ついでに、好き嫌いを明確にてきしてくれればなおいい……と、書いてきて、いったい誰に読んでほしいのだろうと首をかしげる。あきらかに、これはや逃避のたぐいなのだ。一行も書かずに一週間った。明日も書けまい。無風なのに走れず、胸が苦しくなってくる。

平成28年(2016)5月4日

坂岡 真

ささおか しん

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