源氏物語 姫君仏教トーク
英月

 紫式部『源氏物語』に登場する姫君たちが、英月に恋愛相談をした?
 私たちが悩み苦しむ、すべての問題の答えが、仏教(=お経さん)にあるのであれば、恋愛問題の答えも必ずあるハズ。
 古典を学べるうえに仏教まで学べ、しかも恋愛の悩みも解消できる、お得すぎる恋愛相談。仏教ガールズトークが爆発する!?

第3話

今回の悩み多き姫君「空蝉」

 のすけの後妻で、のかみのきおぎままはは

 紀伊守の家に来た光源氏と関係を持ちますが、年老いたりょうの後妻である自分の立場をわきまえ、思いとは裏腹に光源氏を拒み続けます。夫の死後、義理の息子の紀伊守に言い寄られたことを悩み、出家。光源氏の邸宅の一つ、じょうひがしのいんに引き取られます。

 ようぼうは地味。しかし奥ゆかしさと気品により、光源氏の心を引きつけます。

◎空蝉の悩み

 空蝉の悩みを言葉にすると、「どうしようもない」この一言に尽きるのではないでしょうか。
 愛しい人と想いを通わせることができないのであれば、想いが通じるというゴールに向かって努力をするという希望もあります。けれども空蝉の場合、愛しい人とはすでに想いが通じてしまっているのです。ただ残念なことに、自分の思う形ではなかったのです。

 彼女の思う形、それは独身の時に出会いたかった、という思いです。だからと言って、年老いた中流の夫と別れて、若く高貴な光源氏と新しい人生を歩むという選択は、彼女にはできません。

 なぜなら、望むと望まざるとにおいて、今、自分が置かれている境遇と立場という現実……。光源氏に対して相応ふさわしくないと思うそれを、夫との別れという形で切ったとしても、切ったという事実が残るだけで、その現実を生きた空蝉という存在は残ります。愛しい人に相応しくない自分を内包したまま、新しい一歩は踏み出せないからです。

 かといって、光源氏への想いはあふれてくる。また、想い人からの直球の感情。それぞれの想いが波のように押し寄せてくる中で、おぼれそうになりながらも、決して目先のよろこびには頼らず、自分の立場を通して自分自身と向き合い続けた空蝉。

「どうしようもない」現実を、「どうしようもない」と嘆きながらも、決して逃げず、向かわず、流されず――。自分が自分として生きていこうとする姿は、悩み苦しむ本人の気持ちとは裏腹に、だかく美しい姿として光源氏の心をとらえます。

英月

えいげつ

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