シネコラム

第570回 トゥルー・グリット

第570回 トゥルー・グリット

平成二十三年四月(2011)
新宿 新宿武蔵野館

 

 ジェフ・ブリッジスは好きな俳優で、なんといっても最初に観た『ラスト・ショー』が最高に素晴らしかった。その次の『怒りを胸にふり返れ』も『ラスト・ショー』同様に高校生の役だったので、私とほぼ同世代である。
 中年に差しかかる頃、実兄のボウ・ブリッジスとピアノ弾き兄弟の役で共演した『恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』もまた、切なく心に残る名作である。
 そして、還暦すぎたブリッジスが老保安官役で出演した『トゥルー・グリット』は、かつてジョン・ウェインが主演した西部劇『勇気ある追跡』のコーエン兄弟によるリメイクである。
 町まで馬を売りに行った牧場主が、雇っていた使用人チェイニーに殺され、金と馬を奪われる。父の死体を引き取りに来た十四歳の娘マティが、父の敵を討つために保安官のコグバーンを雇う。腕はいいが、片目が眼帯、飲んだくれの毒舌親父。
 チェイニーはテキサスで手配書の回っている賞金付きのお尋ね者だった。若いテキサスレンジャーのラ・ビーフが賞金目当てに加わって、三人で犯人を追う旅に。
 コーエン兄弟の描く西部劇。荒野の風景、町のたたずまい、馬やカウボーイなどが実に美しく、西部劇はすべて絵になるのだ。映画は筋も大切だが、やはり映像が見事でなければと、つくづく実感した次第である。
 主演の保安官ジェフ・ブリッジスは文句なし、少女役のヘイリー・スタインフェルドもいいし、テキサスレンジャーのマット・デイモン、悪役チェイニーのジョシュ・ブローリンもみんな渋くて味わいがある。
 そしてラストの物悲しさ。単なる勧善懲悪と違い、じーんと胸に浸みる。日本の時代劇なら、さしずめ仇討ちもの。父の敵を討とうとする少年を老いた浪人が助太刀するというようなストーリーだ。とすれば浪人は、やはり三船敏郎であろう。

 

トゥルー・グリット/True Grit
2010 アメリカ/公開2011
監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、ヘイリー・スタインフェルド

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