作者が朝井まかてなので、歴史・時代小説だと思う人が多いだろう。だが本書は、和風ファンタジーである。なにしろ主人公が〝草〟だ。深山の奥に根を張り、なぜか人格を持ち喋る、巨大な草なのである。
ストーリーはしばらくの間、その草が子狐と山姥に物語を聞かせるというスタイルで進行する。有名な民話をベースにした、数々の物語は、素朴な面白さに満ちているのだ。
ところが途中で、草たちの前に現れた、小太郎という不思議な少年の物語へと移行。さらにそれを経て、草の正体が明らかになると共に、作品のテーマが浮かび上がってくるのである。
では、本書のテーマは何か。一言でいえば、物語そのものだ。人間はなぜ、物語を求めるのか。あるいは求めなくなるのか。ファンタジックなストーリーを通じて、作者は物語の持つ根源的な意味を、力強く表現する。小説が、いや、物語が好きな人ならば、いつまでも語り継がれてほしいと願う、愛すべき作品なのだ。