捨て身でタックル
今のあなたを書いてください――。
『洛中洛外画狂伝 狩野永徳』を書く前に編集者さんからそうオーダーされたのを今のことのように覚えています。その真意についてうかがうことはできていませんが、あなたはまだまだ若いのだから捨て身でタックルをかましてやりなさい、という謂いだったのかもしれません。
思えばあの頃は未熟で、誰かの言葉をうのみにして、借り物の思いで小説を書いて悦に至っていた気がします。そんな新人作家に対して、お前らしさを見せてみろ、お前の魂を晒してみろ、と問うていたのが、あの編集者さんのお言葉だったのかもしれません。
今や独自路線を独り行くイロモノ作家扱いされている今日この頃ですが、思えばわたしにも青臭いアーリーディズがあったのだなあ、とこそばゆくもあります。
今回ご縁あり、徳間書店さんで二次文庫を刊行していただく運びになりました谷津矢車のデビュー作、お手に取っていただけましたら幸甚です。
[平成30年(2018)3月2日]