2015年に徳間書店から刊行された、山口恵以子の長篇が文庫化された。ある想いを胸に秘め、太物問屋を大店に育てた、女主人の半生記だ。
日本橋通旅籠町にある太物問屋「巴屋」の長女のおけい。美しい次女を溺愛する母親に、彼女は疎まれていた。隣家の放蕩息子・仙太郎から貰った言葉と櫛を大切にしながら、早くから店のことを学び始める。父親が死ぬと、若くして「巴屋」の女主人となり、勘当されて行方もしれない仙太郎のために、江戸一番の店にしようと奮闘するのであった。
聡明で誠実だが、ドライな性格のおけい。下渡海藩の特産品を、工夫を凝らして売り出すなど、商才も抜群だ。そんな彼女の行動により、「巴屋」が大きくなっていく。ここが読んでいて、実に気持ちがいい。
一方で、母親や妹との確執など、人間関係の悩みは多い。その果てにたどり着いた、ラストのヒロインの姿が感動的だ。波乱に富んだ女性の人生を、とことん堪能できるのである。