倉阪鬼一郎の新シリーズは、作者が得意とする料理を題材としている。しかも、江戸で味わう浪花の味だ。大坂の菱垣廻船問屋「浪花屋」の主人・吉兵衛のアイディアにより、江戸に出店された廻船料理「なには屋」。吉兵衛の子供の、次平とおさやの兄妹が営んでいるが、なかなか料理が江戸っ子の口に合わず苦戦中。それでも隠密廻り同心や醤油酢問屋の主など、常連になってくれた客のアドバイスを受け、しだいに受け入れられていく。
兇状持ちの捕縛や、上方者を憎む料理屋の嫌がらせなどもあるが、それは「なには屋」を巡るエピソードのひとつに過ぎない。ある事情により失踪した父親を案じながら、上方の味を江戸っ子に合うよう奮闘する「なには屋」の面々と、彼らの周囲に集まる人々の、気持ちのいい交歓が、読みどころになっているのだ。
もちろん次々と出てくる料理も、本書の魅力である。特に、深川丼ならぬ淀川丼は、食べてみたい。レシピを強く希望しておく。