四つの出版社を横断して刊行されている、井川香四郎の「もんなか紋三捕物帳」シリーズも、本書で九冊目となった。江戸の岡っ引の元締めと呼ばれる大親分〝もんなか紋三〟は、十八人の子分たちと共に、さまざまな事件に立ち向かう。
収録されているのは四篇。商家の火事が盗賊一味に繋がっていく「泥に咲く花」、流行病の裏に潜んだ犯罪を暴く「枯れ紅葉」、金貸し娘が巻き込まれた騒動に紋三が介入する「守銭奴」と、どれも読みごたえあり。
その中で特に注目すべきは、冒頭の「雨宿り」だろう。たまたま入った居酒屋の料理の味から、十五年前の事件を思い出した紋三。駆け出し時代に挙げた手柄は、しかし冤罪だったのではないか。自らの進退をかけて、真実を追う紋三がたどり着いた真実は、苦いものであった。
過去と現在を巧みに絡ませたストーリーから、単なる捕物ヒーローではない、紋三の人間味が伝わってくる。それがこのシリーズを、一段と深いものにしているのだ。