今年(2017)、三冊の優れた戦国短篇集を刊行し、あらためて注目を集めた天野純希だが、既刊の長篇だって凄いのだ。それを証明するのが本書である。権謀術数を駆使して出羽国の大大名に成り上がった戦国武将・
民の安寧と家族の幸せを願う義光。家督相続で父親と骨肉の争いを演じたり、甥の伊達政宗と戦ったのも、すべてはその為であった。こうした義光の、優しい理想を実現したいが故に、策謀を巡らせずにはいられない人間性が、織田・豊臣・徳川と流れゆく時代の中で、活写されているのである。
また、奥羽の地で繰り広げられる合戦の描写も優れている。特に、天下の行方を左右することになる、最上軍と上杉軍の戦いは、迫力満点だ。
さらに詳しくは触れられぬが、義光亡き後、過酷な道をたどる最上家に作者が与えた、一筋の救いも素晴らしい。冒頭からラストまで、まさに圧巻の読みごたえであった。