幕府に睨まれる尼崎藩の窮地を何度も救った元江戸家老・塩谷隼人を主人公にした、牧秀彦の人気シリーズは、本書でさらなる進化を遂げた。なんと隼人が、江戸家老に返り咲いたのだ。だが、藩の内証は、相変わらず厳しい。両替商の加島屋正誠を頼るため、隼人はかつて命を狙われたことのある大坂を目指すのだった。
危険があるのは分かっているが、金がないため家仕の金子作左衛門しか大坂に連れていけない隼人。そんな彼を守ろうと、シリーズでお馴染みの日比野左内・柴崎条太郎・松平信十郎の三人が立ち上がる。なんとも嬉しい展開だ。
ところが大坂の地では、尼崎藩の者たちが正誠を攫うという、驚天動地の事件が発生。老中から隼人抹殺を命じられている商人の暗躍もあり、事態は紛糾する。それを剣の腕と、誠心誠意により解決する、隼人の振る舞いが恰好いい。老骨にして硬骨。塩谷隼人こそが、牧作品最大のヒーローであることを、本書を読んであらためて確信した。