第十七回大藪春彦賞を受賞した、青山文平の名作が文庫化された。藩札をテーマにした時代経済小説である。ちなみに藩札とは、藩の中だけで通用する紙幣のこと。今風にいえば、地域通貨である。
主人公の奥脇抄一郎は、その藩札に関する諸々を指南する浪人だ。かつて藩札に関する混乱により、仕えていた小藩を取り潰され、浪人になった抄一郎。彼のもとに、一万七千石の島村藩から、藩札コンサルタントの依頼が舞い込んだ。新たな仕法を思いついた彼は、鬼のごとき姿勢で事に臨む、藩の執政の梶原清明と共に、活動を開始するのだった。
作者は前半で抄一郎の仕えた藩が、いかに藩札で失敗したかを、じっくりと綴っている。そして島村藩の藩札の件を、心に傷を負った主人公のリターン・マッチにした。この挫折と再起が、大きな読みどころである。また、後半で強烈な印象を残す、清明の生き方も、注目ポイントだ。これが書きたかったという、作者の熱気が伝わってくる一冊である。