面白いネタを、ぶち込んできたと、感心してしまった。稲葉稔の「新・問答無用」シリーズ第五弾のことだ。江戸の町年寄の配下となり、やっかい事を解決している柏木宗一郎が、新たに依頼されたのは、なんと沽券状詐欺である。
沽券状とは、土地や家屋の売買の際に、売主から買主に与えられる、売り渡し証文である。売買には厳重な手続きが必要だが、詐欺師一味は、システムの穴を突いたようだ。土地や家屋の持ち主が知らないうちに売買を成立させてしまう詐欺の方法が、よく考えられている。本書の読みどころといえよう。
その一方で、宗一郎の行動も見逃せない。死人まで出た相次ぐ詐欺の一味を、地道な探索で追っていく。宗一郎の存在に気づいた一味によって、愛する妻に危機が迫るなど、サスペンスも盛りだくさん。そしてラストの、強敵との死闘。ネタよし、キャラよし、チャンバラよし。文庫書き下ろし時代小説の面白さが、この一冊に詰まっているのである。
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