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榎本 秋

世界を見た幕臣たち

幕末遣外使節団の軌跡

榎本秋/著

レーベル:歴史新書
出版社:洋泉社
刊行年月:2017年9月4日
価格:950円+税
判型:文庫

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幕臣たちも頑張った! 明治外交の礎になった、遣外使節団たちの活躍を見よ

 幕末は戦国時代と並んで非常に人気のある日本史テーマの一つです。小説、漫画、ドラマなど、様々なエンターテインメントの題材になっているので、皆さんが目にする機会も多いでしょう。
 そこで焦点が置かれるのは多くの場合、尊王攘夷・討幕運動の主役――いわゆる維新志士たちで、どうしても幕臣たちは脇役の側に追いやられることが多いようです。新選組は幕府側ですが、彼らの立場は少々特殊ですしね。
 しかし、近年では幕府と幕臣の再評価が進んでいます。確かに彼らは旧時代的で、敗者であったかもしれないけど、幕臣たちが奮闘した結果が後の明治維新につながった部分も大きいんだよ、というものの見方です。
 この本で紹介しているのはそうした幕臣たちの活躍の一つ、幕末に西洋列強へ派遣された使節団のことです。彼らは条約を結ぶための使者であったり、外国の事情や進んだ技術を調べるための調査員であったり、交渉を行うための外交官であったりしました。
 しかし状況は常に過酷で、使節団の目的はなかなか達成されません。日本の常識と西洋の常識があまりにも違ったこと、幕末の動乱に揺れる日本の情勢がころころ変わって翻弄されたこと。
 それでも不屈の魂と好奇心によって、ほとんど異世界かとも思われる異国を走り回った使節団の物語は実にドラマチックで、そして読みごたえがあります。
 そこでこの本では、勝海舟らが乗り込んだ咸臨丸が護衛として一緒にアメリカへ渡ったことで有名な万延遣米使節から、徳川慶喜の弟とともにヨーロッパへ渡った慶応遣欧使節まで、様々に数奇な運命を背負った使節団たちの物語をメインとしています。加えて上海に派遣された幕臣たちや留学生、さらには明治になってからヨーロッパに派遣された岩倉使節団と幕府の使節団のつながりなどについて触れ、幕府と幕臣が後の外交に残した影響を紹介しているのです。
 どうしても日陰ものになりがちな幕末の幕臣たちが、少しでも皆さんにとって親しみのある存在になれば幸いです。

[平成29年(2017)9月6日]

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